理系男(その3)

 新しい研究テーマに挑戦する研究開発業務で新しいものを作るとき、具体的にどうやって進めていくのか、という問題に直面します。

 仕事に就いてからずっと環境分析業務をやってきた友人がいますが、その友人が開発に異動になったときに、どうもこの問題に直面したようです。

 “研究”とか“開発”と一口に言うのは簡単ですが、新しい成果やモノを生み出すのは苦しさも伴います。

 「今日からおまえの担当ね」と言われて、何の考えも無しに開発業務に就いたとすると、そもそもどこからどう手をつけていいのか、という悩みがやってきます。

 上記友人はその後、再び分析業務に異動になりました。本人は自分が開発に向いていないと思っているようで、以前の部署に戻されてホッとしていたようです。

 研究、開発を進めるのには2つのアプローチがあります。

 仮に、「ベンゼンやアンモニアなどの工場の有害成分を効率よく吸収する吸着材を開発する」という任務に就いたとします。

アプローチ1.データや経験に基づいて開発

 例えば、ベンゼンについては活性炭が有効、アンモニアについてはゼオライトが有効、だというデータや経験があったとします。

 だったら2つの吸着材を併用することで上記2物質を効率的に吸収する素材ができるかもしれません。

 配合を何通りか試して最も試験データが良いものを完成品にするというやり方が浮かんできます。

アプローチ2.原理に基づいて開発

 吸着材の吸着原理とはどのようなものなのか、ですが、活性炭の場合は活性炭表面の細孔に化学物質がスポッと挟まる物理吸着という現象で説明できます(下の写真の穴の中に分子が埋まるイメージ)。
 
 (出典:東京都水道局https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/suigen/topic/14.html)

 だとすると、ベンゼンにはベンゼン用の、アンモニアにはアンモニア用の分子サイズの細孔を作れば、(もしかしたら)活性炭だけでそれぞれの物質を効率的に吸着できるかもしれません。

 そのためには活性炭製造条件(製造温度など)を工夫し、活性炭表面に狙ったサイズの穴を作る必要があります。

 その後、出来上がったモノを試験に供して性能を確かめ、効果が認められたら完成となります。

 

 どうでしょうか?どちらが研究開発っぽいと感じましたか?

 どちらも立派なやり方であり、どちらが正しい、間違っているということは言えません。

 ちなみにアプローチ1を「帰納(きのう)法」、アプローチ2を「演繹(えんえき)法」と言います。

 簡単に整理すると、

  帰納法
(上記アプローチ1)
演繹法
(上記アプローチ2)
研究開発成功率 高い 必ずしも高くない
効果 予想の範囲内が多い 予想を超える場合有

です。

 帰納法だと、ある程度の成果は最初から見込めますが、既存品の最適化に終わることが多いです。

 一方、演繹法だと失敗、トライアルの繰り返しですが、技術革新につながることもあります。

 (あくまで私の考えですが)知的好奇心が発動するのは演繹法です。演繹法は研究職的な考え方だと思います(帰納法は誰でもやれるでしょう)。

 なお、事業化して、それが売れる、売れないの問題はまた別の話です。
 技術なんか組合せでとにかく早くモノを作れ、という組織もあると思いますし、苦労して作ったモノより小手先で作った商品の方がヒットすることもあると思います。
 ときに技術者はそうした苦悩とも戦わなくてはなりません(それでも営業職の売上ノルマの苦悩に比べたらはるかに楽?)。

つづき:理系男(その4)

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