先日、弁理士会で同じ委員会の弁理士同士で飲んだ際に、記憶力に関する話で盛り上がりました。
“弁理士”という資格は特許や商標など知的財産に関わるもので、理系資格の中では一応、最難関だと言われています。
1次試験はマーク、2次試験は論文、3次試験は面接でどれも一筋縄ではいきません。
冒頭で“委員会活動”と記載しましたが、これは弁理士会の中に様々な委員会活動(例えば、セミナーを通じて知財啓発活動を行う、など)があり、私が所属している委員会のことです。
私が所属する委員会には弁理士だけでなく、弁護士でもある人、公認会計士でもある人、社会保険労務士でもある人、中小企業診断士でもある人などがいます(いわゆるダブルライセンス)。
中にはこうした資格を大した苦労もなく、あっという間に取得しているような人もいます。
今回、飲みながら盛り上がったのは、そうした人たちの記憶力は一体どうなっているのかね?ということです。
以前の記事でも書きましたが、私は弁理士試験に5年費やしました。
特許法などの条文がなかなか頭に定着せずに、1次試験突破に4年かかったので記憶力は大して良い方ではありません(弁理士試験の1次は5択なのでマグレ合格がありそうに感じますが、“この中で正解は何問ある?”ということが問われたりするため、マグレ合格はまずないでしょう。たまたま正答が多かったとしても多くの受験者も出来が良ければ合格点が上げられてしまいますし)。
一見すると無味乾燥に感じる法律の条文を記憶するのはつらい作業です(様々な資格試験でも同じようなことが言えるでしょう)。
特許法の条文の一例(こんなのばっかりです。読む必要はないです)
第十七条の二 特許出願人は、特許をすべき旨の査定の謄本の送達前においては、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる。ただし、第五十条の規定による通知を受けた後は、次に掲げる場合に限り、補正をすることができる。
一 第五十条(第百五十九条第二項(第百七十四条第二項において準用する場合を含む。)及び第百六十三条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定による通知(以下この条において「拒絶理由通知」という。)を最初に受けた場合において、第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
二 拒絶理由通知を受けた後第四十八条の七の規定による通知を受けた場合において、同条の規定により指定された期間内にするとき。
三 拒絶理由通知を受けた後更に拒絶理由通知を受けた場合において、最後に受けた拒絶理由通知に係る第五十条の規定により指定された期間内にするとき。
四 拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき。
2 第三十六条の二第二項の外国語書面出願の出願人が、誤訳の訂正を目的として、前項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、その理由を記載した誤訳訂正書を提出しなければならない。
3 第一項の規定により明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、誤訳訂正書を提出してする場合を除き、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(第三十六条の二第二項の外国語書面出願にあつては、同条第八項の規定により明細書、特許請求の範囲及び図面とみなされた同条第二項に規定する外国語書面の翻訳文(誤訳訂正書を提出して明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をした場合にあつては、翻訳文又は当該補正後の明細書、特許請求の範囲若しくは図面)。第三十四条の二第一項及び第三十四条の三第一項において同じ。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。
4 前項に規定するもののほか、第一項各号に掲げる場合において特許請求の範囲について補正をするときは、その補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明と、その補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明とが、第三十七条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなるようにしなければならない。
5 前二項に規定するもののほか、第一項第一号、第三号及び第四号に掲げる場合(同項第一号に掲げる場合にあつては、拒絶理由通知と併せて第五十条の二の規定による通知を受けた場合に限る。)において特許請求の範囲についてする補正は、次に掲げる事項を目的とするものに限る。
一 第三十六条第五項に規定する請求項の削除
二 特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)
三 誤記の訂正
四 明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)
6 第百二十六条第七項の規定は、前項第二号の場合に準用する。
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「語呂合わせで記憶したけど、語呂の部分しか思い出せなくて肝心な部分が出てこなかったことがある」
とか
「忘れるために記憶しているような気がしていた」
など、その場では笑い話も出てきました。
そうした話の中で、記憶の達人がどういった要領で記憶しているか、というポイントについて出てきたので以下に挙げます(簡単に資格を取ってしまう人、すなわち記憶力抜群の人がこんなこと言っていた、そうした連中の特徴はこうだ、という記憶の要点)。
資格の勉強をしている人の参考にもなるかと思います。
1.実は一つのことに対して記憶している情報量が多いこと
例えば、上枠に記載した特許法第17条の2 第5項 第3号(赤字部分)を見てください。
ここには「誤記の訂正」とだけ記載されています。
一見すると、たったの5文字で情報量が少なく、この部分だけは簡単に記憶できそうです。
しかし、こうした記憶事項が2~3程度ならまだしも、合格に必要な勉強範囲全体で見ると無数に存在します(特許法は204条まであります)。
つまり、これを特許法第17条の2 第5項 第3号が「誤記の訂正」とだけ暗記するとすぐに忘れます。
では、どうするべきか(どのようにおぼえるべきか)が以下になります。
特許法第17条の2は特許庁に出願した書類の補正(どのようなことなら出願書類の内容を書き直すことができるか、を規定したもの)です。
特許権を取りたい人は、権利を取りたい範囲(技術的な内容)を出願書類に記載し、特許庁に提出しなければなりません。
ただ、同じような技術について研究をしていて既に学会発表している人もいるかもしれませんし、同じような内容で誰かが先に特許出願しているかもしれません。
その場合、せっかく特許出願しても提出書類の内容だと権利取得できない可能性があります(既に公知と化している技術や誰かが出願した技術については原則、権利を取得することができません)。
提出書類の内容では特許権を取ることができない場合、特許庁審査官が出願人に対して“拒絶理由通知書”というのを出します。
このとき出願人には権利を取りたい範囲を修正する機会が与えられます。
ただし、無制限に修正を認めると、審査が長引いたり、他の人との不公平が生じたりする不都合が考えられます(特許出願とは年間に30万件以上あるのです!)。
そこで、特許出願書類について、出願人に所定の修正制限内で修正を認めること、が17条の2の記載されているのです。
その中で「誤記の訂正」はタイプミスなど軽微な誤りを修正するものであり、審査官にとってもチェックが簡単で審査時間が長引いたりする心配もないから、与えた制限内で最後の最後まで修正を認めましょう、というものです。
こうした情報とともに学習すれば、「誤記の訂正」に関する規定があるということが脳みそにがっちりと定着するでしょう。歴史の勉強で時代背景や前後の文脈とともに記憶するのが同様のことだと言えます。
このように単純な言葉一つであっても、記憶に長けた人は多くの情報を付加しておぼえているようです(これが天才の記憶術?)。
だとすると、資格取得のために薄くまとめられた市販テキストがあったとしても、テキストの内容を肉付けせずに表面部分をいっきに丸暗記するのは実は非効率なのかもしれませんね。
2.割り切りがあること
何でもかんでも上記1のようにいかないこと(上記1にこだわることの非効率)もあります。
例えば、商標法第4条(の一部)を以下の枠に示します。
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
一 国旗、菊花紋章、勲章、褒章又は外国の国旗と同一又は類似の商標 二 パリ条約(千九百年十二月十四日にブラッセルで、千九百十一年六月二日にワシントンで、千九百二十五年十一月六日にヘーグで、千九百三十四年六月二日にロンドンで、千九百五十八年十月三十一日にリスボンで及び千九百六十七年七月十四日にストックホルムで改正された工業所有権の保護に関する千八百八十三年三月二十日のパリ条約をいう。以下同じ。)の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国の紋章その他の記章(パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国又は商標法条約の締約国の国旗を除く。)であつて、経済産業大臣が指定するものと同一又は類似の商標
(以下、省略) |
これは「国旗」とか「菊花紋章」などについては商標登録ができないと定めた条文なのですが、理由もへったくれもなく、暗記に徹した方が良いと判断できるかもしれません。化学のすいへーりーべ・・・はまさにこれですよね。
すぐに資格を取れる人はこうしたことのバランス感覚があるのかもしれません(これを教えてくれるのが予備校なのでしょう)。
ちょっとは参考になったでしょうか?
これらは資格取得者の体験に基づくことですので真似して損はないと思います。
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