1970年代から生きている者としては、90年代のインターネット、携帯電話・スマホあたりが近年の技術進歩を感じさせる分野ですが、進歩していないと感じる技術も多いです。
身近なところでは電池(バッテリー)が挙げられます。
スマホやタブレットの電源は1日が限界ではないでしょうか?
パソコンにいたっては数時間ですよね。
1か月くらい充電しなくても使える電池が開発されれば、旅先などに充電器を持ち歩く必要がなくなってめちゃくちゃ便利です。
まあ、以前はウォークマンを外に持ち歩くときは一次電池(※)併用で聞いていたので、全く進歩がないというわけではないのでしょうが。
※ 使い切りで充電できない電池。充電式のものが二次電池。
こんな状況の中、最近は“次世代電池”と言われるものが注目されています。
と、その前に電池の原理についてざっくりと説明します。
電池は、
・電解液という金属を溶かす液体
・電解液に浸すと溶けて(イオン化して)電子を放出しやすい金属
・そうでない金属
からなります。金属同士を導線でつなぎます(下図)。
<電池のイメージ>(理解を容易にするための便宜的なものです) ① 金属が電解液中で溶けて電気的にマイナス性質の電子を発生 ② 生じた電子は行き場を探し、導線をつたってもう一方の金属棒の方に移動(これが電流) ③ 移動先の(溶けにくい)金属棒にたどり着いた電子は電解液中のプラス成分と結びつく この現象が起きなくなったら電池の寿命です。 また、二次電池(充電式電池)というのは強制的に電子を逆向きに流し、時間を逆戻りさせるかのごとく上記①で電子を放出してやせ細った金属を元にもどすことができるものです(これが充電)。 |
電子を放出しやすい金属とそうでない金属をどう選択するか、どのような形態で利用するか、などが電池の性能を決めるのでしょう(ここが研究、開発のポイントの一つでしょう)。
ちなみにリチウムという金属が電子を最も放出しやすい性質(化学では“イオン化傾向”という言葉で表現)で電池材料の代表格です。
上図のように電流を生み出すには電子の移動をどうやって作るかにかかっています。
太陽の光をきっかけに電子の流れを作るのが太陽電池、水素と酸素の化学反応を利用して電子の流れを作るのが燃料電池、といった感じです。
電池はこうした金属材料などの物理化学的性質を利用したものなので、その材料が持つ性質を超えた性能を出すことは文字通り物理的に不可能です。
従来的な材料や形態では電池の性能を改良する余地は限られているでしょう。
これが消費者から見て電池の性能がなかなか向上しないと感じる要因になっています。
一方、最近は“次世代電池”と言われるものが話題になっています。従来の電池技術のブレークスルーが期待されています。
例えば、その一つに“全固体電池”と言われるものがあります。電解液を使わず固体だけからなると言われています。
実用化に向けて研究、開発されている段階なので、実際にどの程度の性能なのか体感できませんが、こうした次世代電池にどのような企業が取り組んでいるのか特許出願情報から調べました。
本サイトでは、たびたび特許情報から企業を取り上げています。 特許件数が多い≒企業競争力がある だろうという考えに基づくものです。 |
以下は次世代電池と呼ばれているもの全般を対象に、特許出願件数が多い順に並べたものです(検索条件割愛)。
トヨタ自動車株式会社 |
日産自動車株式会社 |
日本電信電話株式会社 |
シャープ株式会社 |
日本碍子株式会社 |
富士フイルム株式会社 |
古河電池株式会社 |
日立造船株式会社 |
株式会社日立製作所 |
株式会社村田製作所 |
三星電子株式会社 |
スズキ株式会社 |
富士通株式会社 |
ナガセケムテックス株式会社 |
住友化学株式会社 |
株式会社豊田中央研究所 |
出光興産株式会社 |
大日本印刷株式会社 |
他社が10数件~数10件レベルの出願だったのに対し、トヨタは200件近い出願がありました。どれだけ力を入れているのかわかります。
以前別記事(「炭素繊維の特許が多い企業」)で調べた特許情報も含めて自動車メーカーの動きであることに気づきました。
炭素繊維関連について日産はほとんど特許出願していませんが、次世代電池には熱心です。
一方でホンダは炭素繊維に熱心ですが、次世代電池についてはそれほどではないです。
トヨタは何にでも熱心です。
まあ、これは特許情報だけから判断しているので実際にそうなのかよくわかりませんが。
ちなみにトヨタは“全固体電池”、日産は“空気電池”(燃料電池の一種)に関して取り組んでいるようです。
大企業が多い中、ナガセケムテックスという従業員数が600人ほどの企業もあります。主に“全固体型リチウムイオン電池”について出願しています。
次世代電池はこれまで電解液を必要としていたところを固体のみでも電子が移動できるようにした点がポイントの一つとして挙げることができそうです。
ただ、通常、固体は液体よりも重いです。
全固体電池がこれまでの電池と同じ大きさだとすると、より重くなるのかもしれません。
また、安全面(発火とか)や環境面(リサイクル性)についても検証しなくてはいけませんね(電池の発火事故は多いですし)。