前回紹介した企業に化学メーカーが多かったので、“化学”に関連する資格ということで、あの有名な(?)“危険物取扱者”について取り上げます。
例え文系の人でも一度は聞いたことがあるかもしれません。
TOEICに挑戦した友人もこの資格に挑戦すればもっと簡単に社内報奨金を手にできるかもしれない、と完全に“楽して取れる資格”の印象を持っているようです。
以前、“小学2年生が最年少合格”などの話題があったからでしょうかね。
そもそもどんな資格なのでしょうか?
“ガソリンスタンドで働く場合に使える資格”というのは聞いたことがある人もいるかもしれません。
ガソリンなどの“危険物”を取扱うのに必要な資格というイメージで大体あっていると思います。
所定の施設では危険物取扱者を置いて危険物を取り扱わなければなりません。
これが危険物取扱者のニーズの根源です。
<危険物取扱者を必要とする施設>
一定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱う化学工場、ガソリンスタンド、石油貯蔵タンク、タンクローリー等の施設には、危険物を取り扱うために必ず危険物取扱者を置かなければいけません。 (一般社団法人 消防試験研究センターより) |
<危険物取扱者の業務>
甲種危険物取扱者は全類の危険物、乙種危険物取扱者は指定の類の危険物について、取り扱いと定期点検、保安の監督ができます。又甲種もしくは乙種危険物取扱者が立ち会えば危険物取扱者免状を有していない一般の者も、取り扱いと定期点検を行うことができます。 丙種危険物取扱者は、特定の危険物(ガソリン、灯油、軽油、重油など)に限り、取り扱いと定期点検ができます。 (一般社団法人 消防試験研究センターより) |
“危険物”が何かは消防法に細かく規定されています(下表:消防法別表第一)。
消防法は火災の予防、火災からの保護などを目的としてますので、下表に危険物として記載されているのは火災の危険性がある物質だと言えます。
種別 | 性質 | 品名 |
第1類 | 酸化性固体 | 一 塩素酸塩類 二 過塩素酸塩類 三 無機過酸化物 四 亜塩素酸塩類 五 臭素酸塩類 六 硝酸塩類 七 よう素酸塩類 八 過マンガン酸塩類 九 重クロム酸塩類 十 その他のもので政令で定めるもの 十一 前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの |
第2類 | 可燃性固体 | 一 硫化りん 二 赤りん 三 硫黄 四 鉄粉 五 金属粉 六 マグネシウム 七 その他のもので政令で定めるもの 八 前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの 九 引火性固体 |
第3類 | 自然発火性物質及び禁水性物質 | 一 カリウム 二 ナトリウム 三 アルキルアルミニウム 四 アルキルリチウム 五 黄りん 六 アルカリ金属(カリウム及びナトリウムを除く。)及びアルカリ土類金属 七 有機金属化合物(アルキルアルミニウム及びアルキルリチウムを除く。) 八 金属の水素化物 九 金属のりん化物 十 カルシウム又はアルミニウムの炭化物 十一 その他のもので政令で定めるもの 十二 前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの |
第4類 | 引火性液体 | 一 特殊引火物 二 第一石油類 三 アルコール類 四 第二石油類 五 第三石油類 六 第四石油類 七 動植物油類 |
第5類 | 自己反応性物質 | 一 有機過酸化物 二 硝酸エステル類 三 ニトロ化合物 四 ニトロソ化合物 五 アゾ化合物 六 ジアゾ化合物 七 ヒドラジンの誘導体 八 ヒドロキシルアミン 九 ヒドロキシルアミン塩類 十 その他のもので政令で定めるもの 十一 前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの |
第6類 | 酸化性液体 | 一 過塩素酸 二 過酸化水素 三 硝酸 四 その他のもので政令で定めるもの 五 前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの |
危険物取扱者には“甲種”、“乙種”、“丙種”とランク付け(?)された資格があります。
持っている資格で取扱える危険物が違います(下表)。甲種は1つの試験に合格すれば全種類取り扱えますが、乙種は危険物の種別ごとに6つの試験があります。
危険物種別 | 甲種 | 乙種 | 丙種 |
第1類 |
〇 |
〇 (合格した類のみ) |
|
第2類 | 〇 (合格した類のみ) |
||
第3類 | 〇 (合格した類のみ) |
||
第4類 | 〇 (合格した類のみ) |
〇 (一部) |
|
第5類 | 〇 (合格した類のみ) |
||
第6類 | 〇 (合格した類のみ) |
||
業務 | 取扱い、定期点検、保安監督 | 取扱いのみ |
乙種は危険物種別ごとの試験で特にガソリンスタンド業務に求められる第4類(乙種第4類:乙4「おつよん」)が人気です。
受験資格ですが、乙種、丙種は誰でも受けることができます。
甲種だけ条件があります。
参考:一般社団法人 消防試験研究センター
http://www.shoubo-shiken.or.jp/kikenbutsu/qualified01.html
甲種は化学系であれば15単位取っていれば受験できます。
そうでなければ例えば乙種を4種類取ることで受験資格を得るなどの道があります。
合格率はざっくりと、
甲種・・・約30%
乙種・・・乙4種は約30%、それ以外は60~70%
丙種・・・約50%
です。
乙4は桁違いの受験者がいるため(30万人!)(化学に縁のない受験者も多く含まれているため?)合格率が低くなっていると考えられます。
参考:一般社団法人 消防試験研究センター
https://www.shoubo-shiken.or.jp/org/result.html
手頃な試験に思われがちですが、勉強時間の目安は甲種が300時間、乙種および丙種がそれぞれ100時間だと言われています。
資格を取得したら履歴書に書けるのか?就職に役立つか?
化学系専攻であればこの資格試験の内容と一貫性があるので履歴書に書いても違和感は感じません(ただ、化学系の人が書くとしたら甲種でしょうかね)。
また、危険物取扱者は一定の施設において必要とされるものです。
従って危険物取扱者が必要な施設(化学工場など)を持つ企業に対して働きたいという意気込みの証になるかもしれませんね(?)。
なお、応用化学科出身の私の周りで、この資格を取っとくか、と学生のときに言っていたのが何人かいましたが、持っていることをアピールするのはおらず、就職活動や転職活動で実際に役立ったという声は聞いたことがありません。
ただ、業務的には役立つ場面があると思います。
例えば、私が以前いた損害保険業界においてその知識は役に立ちます。
火災リスクを評価できることは損保会社にとって非常に重要です(火災保険は損保にとって主力商品の一つですから)。
火災防止を目的とした消防法に規定されている危険物の知識は業務遂行に役立つことが多いはずです。
ここまで国内では大きな地震を何度か経験するなど、“安全”に対する意識は以前に比べると高まっている気がします。
就職活動に役立つか否かは別にして就職後の企業の安全対策に役立つ場面が意外に多いかもしれません。
関連記事:危険物取扱者という資格(その2)
友人の乙4挑戦記(その1)