M&AそのものやM&A仲介自体に資格は必要ありません。ここではM&Aのプロセスにおいてどのような専門性が求められるのか、その専門に近しい資格について触れていきます。
M&Aはあの企業の技術が欲しい、とか、販売チャネルが欲しい、といったビジネス戦略に基づいて行うものです。
そのためには、
技術や販路が本当に自社にあっているのか?
その企業にどれくらいの価値(買収価格)があるのか?
財務状況はどうか?
買収先従業員の人事的扱いはどうするか?
買収後にスキルを持った従業員が離散しないか?
システム統合はどうすべきか?
など様々な問題を解決していかなければなりません。
こうした問題を見極めるのが前回記事で触れたデューデリジェンス(DD)であり、見極めることができないことは契約でカバーする必要があります(瑕疵担保責任など)。
M&Aの効果が得られず、当初見積もったほど企業価値がなかった場合は減損処理が必要です。
M&Aプロセスに不可欠な専門分野として法律、会計、税務が挙げられます(本来はビジネス戦略的な専門性が最も重要なのでしょうが、ビジネス的な成功・失敗は無視。手続き的な面でM&Aに必要であろうということで法律、会計、税務としました)。
こうした専門性を有する資格が弁護士、公認会計士、税理士(いずれも国家資格)です。それぞれ有名な資格なので様々なサイトに紹介があります。詳細はそちらに譲ります。
■弁護士
弁護士になるためには司法試験に合格しなければなりません。
この司法試験には受験資格があります。
法科大学院(ロースクール)(2~3年間)を修了するか、予備試験に合格するかのどちらかが要件になっています。
法科大学院は金も時間もかかるため予備試験ルートを選ぶ人が多くなっているようです。
予備試験の実施回数は年に1回(短答5月→論文7月→口述10月)です。
司法試験は毎年5月に行われますので、司法試験を最短で合格したとしても年をまたぐ(2年がかり)ことになります。
勉強時間の目安は1万時間だとか1万5千時間だとかいろいろ言われていますが、難関試験に関してはこのような勉強時間は全く参考にならないと思います(万全の態勢で受験したものの落ちてしまったら次の受験日までまたひたすら勉強の日々です。下手したら数万時間という人もいるかもしれません)。
知り合いの弁護士の例だと旧司法試験の時代に知識ゼロから始めて働きながら4年で受かったというとんでもない人もいます。
一方で、一切仕事をせずに勉強し続け10年以上かかった人もいます。
後述の公認会計士にしても税理士にしてもそうですが、難関資格は人生そのものを狂わせかねない恐ろしい面があります。
覚悟があるかどうかが一番のポイントかもしれませんね。
参考:http://www.moj.go.jp/content/001127238.pdf
■公認会計士
公認会計士になるには公認会計士試験に合格する必要があります。
受験資格は必要ありませんが、合格後に監査法人などで実務経験を2年以上積まなくてはなりません。
これが公認会計士を目指す上でのネックだと思います。
試験に合格しても監査法人などで働くことができなければ永遠に公認会計士になれないということになります。
ただ、公認会計士の良い点として試験を短期合格しやすいこと、税理士にもなれることが挙げられそうです。
知り合いの公認会計士から聞いた限りでは試験には2年で合格している人が多いようです(合格者から聞いた話なのでその背後にどれだけの脱落者がいるのか謎です。あまり参考にはなりませんね)。
後述の税理士試験よりも短期間で合格でき(る可能性があり)、かつ、税理士にもなれるという不思議さがあります。
大学在学中の公認会計士試験合格はよく聞きますが、税理士試験全科目合格はなかなか聞きません。
参考:http://www.fsa.go.jp/cpaaob/kouninkaikeishi-shiken/qanda/data/12.pdf
■税理士
税理士になるためには5科目の試験に合格する必要があります。
税理士試験の最大の特徴は科目合格でしょう。
合格した科目は永久に有効なので1科目ずつつぶしていくという長期戦略も立てやすいです。
1年1科目計画だと最短で5年間、2科目だと3年間となります。
また、所定の大学院修士課程を修了することで科目免除という道もあります。
ただし税理士試験には受験資格が必要です。
一番簡単なのが一般教養の法律学、または経済学に属する科目を1科目履修し、大学を卒業することです。
大学在学中に受験したい場合、または運悪く(?)所定科目を履修せずに大学を卒業した場合、日商簿記1級に合格しなければならなりません(イッキにハードルが上がります)。
また科目合格ゆえの安心感からなのか、受験歴が十年以上と異様に長くなる人も多いという話を聞いたことがあります。
税理士試験に関してはちょうど友人がブログを作っているので紹介しておきます。
参考:https://www.nta.go.jp/sonota/zeirishi/zeirishishiken/qa/qa03.htm
https://www.nta.go.jp/sonota/zeirishi/zeirishishiken/gaiyo/gaiyou.htm
なお、M&Aに関する民間資格もあるようですが、そうした資格が現実的にどれだけ意味があるのか全くわかりませんので割愛します。